米国から資金逃避、【トリプル安】が出現したが...
2025年4月2日、トランプ大統領から示された相互関税率を受けて、世界の株式市場では株価が大きく下落しました。そして、多くの国では長期金利が一旦低下(債券買い)、為替市場ではドル安(ドル売り)が進展、円を含む主要通貨が上昇しました。150円付近で推移していたドル・円が、一時139円台まで下落したのです。
米国で『トリプル安』が出現...
4月11日、米国では長期金利(10年物債券利回り)が4%台半ばまで急騰(価格は下落)するなど、トリプル安(米株安、米債安、ドル安)に見舞われ、流石のトランプ大統領も動揺?してか『90日間、関税賦課の延期を宣言』したのです。以下、ロイター記事から適宜引用させていただきます。
元記事 : コラム:ドル底入れの兆し、改めて示された円の弱さ=内田稔氏 | ロイター
株安は世界共通の動き
相互関税の詳細が発表された前日(4月1日)と米長期金利が急騰した11日の終値を比べた米国株(S&P500)の下落率は約4.8%でした。これは、主要7カ国(G7)の中では最も低く、反対に下落率トップは、イタリアのFTSE MIB指数(マイナス11.7%)でした。
次いで、フランスのCAC40(マイナス9.8%)、ドイツのDAX(マイナス9.6%)、英国のFT100(マイナス7.8%)と欧州株が軒並み弱く、カナダのトロント指数(マイナス5.8%)、日経平均株価(マイナス5.7%)と続いています。
ちなみに、1日と先週末25日の終値を比べても、米国株の下落率はG7の中でも真ん中です。米国トリプル安とは言うものの、株安は世界共通の動きであって、下落率に照らしてみても、特にドル建て資産を悲観視することはありません。
長期金利の上昇は、米国だけではない...
米国の金利上昇をみると、4月1日と11日では約32ベーシスポイント(bp)上昇しました。リスク回避的な局面での米国債相場の下落が、ドル建て資産の信認低下を市場に強く印象付けた感じですが、カナダの長期金利はそれを上回る約34bp上昇、英国とイタリアの長期金利もそれぞれ約12bp、約2bp上昇したのです。
米国債に連れ安となった面がありますが、長期金利上昇は米国に限ったことではなく、更に米議会でトランプ減税延長などの財政拡張議論が進行していて、長期金利上昇は言わば自然な動きでありました。
この間、10年物のタームプレミアムが拡大しており、いわゆる「悪い金利上昇」が進んだ形ですが、それも2023年8月に格付け会社フィッチ・レーティングスが米国格付けをトリプルAから引き下げた後や昨秋以降のトランプラリーの際にもみられています。その上、プレミアム水準も過去に照らして突出して高いわけでもありません。
結局、トリプル安で問題なのは『ドル安』
一方、従来と異なる反応を示したのがドル安です。先に示した「悪い金利上昇」の場面でも素直にドル高で反応していたためです。そこで改めて4月以降のドル安要因を整理すると以下4点となります。
① 貿易戦争に伴うドル建て資産への信認低下である。米国は財政拡張に伴い、米国債を世界の投資家に売り込む立場にあって、世界に貿易戦争を吹っかけた。その中には、米国債の最大保有国である日本や2番手の中国も含まれます。
その結果、金融市場では米国債とドルの売り手としての中国説がまことしやかにささやかれ、金利上昇と逆行するドル安の一因となったのです。
②中銀の信認低下です。トランプ氏は米連邦準備理事会(FRB)に利下げを迫り、ついにはパウエル議長の解任まで示唆しました。中銀の独立性が危ぶまれ、それがドルの信認低下に波及したのです。
③トランプ政権がドル安を志向しているとの疑惑です。市場では製造業の復権をもくろむ米国が、貿易赤字を解消する手段としてドル安を選択するとの見方がくすぶっています。こうした中、ドル高の是正と協調ドル売り介入を決めた1985年のプラザ合意にならい、トランプ氏の別邸の名を冠した「マールアラーゴ合意」が広くささやかれています。
④米利下げ観測の高まりです。4月の初めには3回程度であった年内の利下げの織り込みが8日には4回まで高まりました。これが長期金利上昇を横目にドル安が進んだ一因と考えられます。
改めて示された『円高の限界』
日銀は金融政策の正常化方針を維持するとみられますが、90日間の相互関税発動までの猶予期間中に含まれる6月会合までは動けないでしょう。その上、年央以降は関税の影響から、各国の中銀が利下げに傾注する可能性があります。
日銀の正常化の先行きは一気に見通しにくくなったのです。そのことは大幅なマイナス圏に位置する実質金利が、引き続き円の弱点として残ることにつながります。ドル安が続く場合でもこの4月に、スイスフラン/円やユーロ/円では円安が進んだように、円が全面高になる展開は見込みにくいのです。
その上、スイスフランが2015年以来、ユーロも21年以来の対ドル高値を回復する中、円は過去最大級の投機筋による先物市場での円買いをもってしても、昨年8月の対ドル高値である139.58円を超えることができませんでした。
他通貨のパフォーマンスに大きく見劣りする円の持続的な上昇ハードルは依然として高いようです。先述した5%程度のドル指数の反発余地、円ロングが解消に向かう可能性を考慮すると、ドル/円が再び150円台を回復する可能性もそう低くはないでしょう。
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